アデューブルックリン(中編)

皆様ご機嫌麗しう。

こちらはすっかり絶賛夏営業のニューヨークです。このブログを書くたびに「こちらは〇〇のニューヨークです」と書くのがお約束、となっていますが、時々不安になるんです。ハタ、本当にニューヨークに住んでいるんでしょうか。実は今ハタは精神病院の片隅で電波を受信しながらニューヨークにいると勘違いしたまま南京都で生きてるんじゃないでしょうか。あの摩天楼が見渡せる川縁はもしかしたら木津川かもしれません。ちなみに今日の晩ご飯は冷凍餃子でした。


今日もたまたまおそらく近所にお住まいだと思われる女性のブログを発見したんですが、なんかすっごいキラキラしてるんですよ。お写真を見る限りでは、ああ、生活圏若干かぶってますね、みたいな感じなのに、向こうさんはなんか、「英語がわからなかったけど起業。日本で住んでるのからしたら大変だけでも、私、このニューヨークがだぁ〜い好き!日本が恋しくて泣いたこともあったけど、あのニューヨークの夜景を見たら元気になれる!」みたいな、なんかハウス食品の小公女セーラみたいな世界が広がってるんですけど。


なんのお薬ですか?


まあそういう世界に生きてた方が楽しいんですかね、ハッピー&ポジティブ。まあハタも別に不幸を感じてるわけじゃないですけど、さすがにまずい飯ばっかり食ってたらイラッと来ませんか?マンハッタンの夜景みて、まあ綺麗だな、とも思いますが、「あれが金持ちの世界かそうかなんの悪さをしたらあのビルに住めるんだ」みたいな邪悪な思いが頭をよぎります。

お金はあるところにはあるんですよね(しみじみ)


おしゃれなブルックリンでスタイリッシュなアタシの生き様を崇めなさいこの愚民ども!文句があるならベルサイユにいらっしゃい!と言わんばかりの在米邦人のキラキラニューヨークレポートにうんざりしているあなた、あなたの居場所はここにあります。ファックおしゃれなブルックリン。そんなハタの最近の興味は、近所の壁の落書きからギャングのシマを特定すること、です。

こういうやつですね。調べるんですがなかなかデータがない


ということで、さよならブルックリン、中編です。


2・結局歳をとった


まあせっかくですからその女性の方のブログの内容をざっくりとお伝えしますよ。あ、別にこの方を批判したりする意図は全くありませんので、その辺はあしからず。


ブッシュウィックの広いロフトに引っ越し。月30万で部屋は超ボロい。トイレもシャワーも壊れている。でもブッシュウィックは世界でも注目されるおしゃれタウン!隣には愛想の悪い白人カップルが住んでいて、毎日大音量で音楽がかかるし下の階からはマリファナの匂いが漏れまくり。でもそんなこと気にしない!漏れてくる音で一緒に踊っちゃえ!


ごめん無理です(40代半ば)


人間やっぱり歳をとるんですよね、当たり前ですけど。ハタも20代の頃は京都は右京区の平和荘という貧乏学生と生活保護家族しか住んでない家賃2万円のアパートに住んでました。確かに香ばしいネタばっかりでしたよ。ハタの部屋の真下が才能のない横山やすしみたいなおっさんとその子供が住んでる、業田良家の「自虐の詩」みたいな家族が住んでて、時々おっさんが怒鳴り散らすのを敷いたお布団を通して聴くのが恒例だったのですが。


20世紀最高の純文学ですよー皆さん読んでくださいねー


まあこの漫画みたいに何かを派手にひっくり返す音がして、そのおっさんが叫ぶのが聞こえるのですよ。「カバン持って出ていけー」とか、


「見るなあああああぁぁぁ」


とか。ご家族の方、何を見てしまったんでしょうか。



でもまあそんな環境でも楽しかったわけですね。若かったから。その後今度は大徳寺のそばのボロ長屋に一人で住みましたが、まあそこもお風呂もないわに天窓に障子紙しか貼ってないわ雨降ったら雨漏りを通り越して柱から水が川のように流れ落ちるわそのせいでカーペットにキノコが生えるわ、みたいな事実上野外みたいな環境に住みましたが、それでも楽しかったわけですよ、ええ。若かったから。


でもねえ。ある程度歳をとってから、こう思うようになりました。

そんな劣悪な環境を「ファンキー」「個性的なライフスタイル」みたいな美辞麗句でごまかせるのは三十路まで、ですわ。


ありがたいことに今ハタが住んでいるアパートは新築物件なので、エアコンと洗濯機が部屋の中にあるわけですね。もうね、本当ありがたい。山から阿弥陀様がお迎えに来てくださるのを目の当たりにするくらいありがたい。

平安貴族的に有り難みMAX



皆様ここで「あれっ?」って思われませんでしたか?エアコンと洗濯機がないアパート、ってどういうことですか?と。


実はニューヨークのアパート、その大半がエアコンと洗濯機がありません。


まあ確かにブルックリン界隈の煉瓦造りのアパートはおしゃれに見えますよ、ええ。みんな憧れるんですよね、あのレンガの壁。まさに日本のブルックリンスタイルでもレンガの壁が必須項目。中にはレンガ模様の壁紙を貼る、という涙ぐましい努力をされているケースも見受けられます。ハタだってやっぱりあんなレンガの壁のアパートに住んでみたいな、とちょっと思ったりもします、ええ。


でも。


そういうアパートは基本的に築100年弱くらいはあったりしますから、部屋の構造自体にエアコンと洗濯機を置く機能がそもそも無いわけですね。なのでそういうアパートはエアコンは基本的に窓に取り付けるウィンドウエアコン、そしてお洗濯はコインランドリー、ということになります。一人暮らしなら洗濯もまとめて週一回くらいでなんとかなりますが、家族四人で洗濯機なし、とか、もう地獄ですよ。でもそういうご家庭がニューヨークの一般のご家庭の大半です。しかも共働きなら平日なんて誰もお洗濯に行けないわけで。そうなると土日に家族4人分x7日の洗濯をコインランドリーで。もうそれだけで1日終わります。


ウインドウエアコンだって結構な轟音ですからね。日本の製品みたいに静かに効果的にお部屋をクールダウンとかしてくれませんよ。当然効き目は緩い。しかも一部屋しか冷やせないので、大きなアパートだとそれが2つも3つもあるわけです。結構振動しますから、その振動が窓のサッシに伝わると、ひたすらガタガタいい続けます。気になりだしたら発狂します。


ブルックリンスタイル。煉瓦造りでちょっと無骨だけど、スタイリッシュで個性的。住民も個性的で自由、日本と違って自分らしさを楽しめる街。


って思われますでしょ?

ノンノン、ですわ!

(急にポリニャック婦人に)


一見オシャレな生活の裏にはまともにエアコンもなく、洗濯すらできない部屋でギリギリかつかつの生活を送っている人が殆どなのです。そして個性的と言えば聞こえがいいが、とりあえず自分さえかっこよければいい、といううざい住人が山盛りです。



しかもこの状態でルームシェア、とか、なんの我慢大会ですか、と。ニューヨークだと確かに若いみなさんはルームシェアとかが一般的、ですから、ハタも10年前に初めてニューヨークに来た時には、ルームシェアという選択肢もあったはずなんですけど、やっぱり30半ばも過ぎてルームシェアは流石にきついっすわ、と。それだったら食費を削ってでも一人だけで暮らせる方がよほどマシ。30代ですでにこんな状態ですから、それから10年経った今なんか、到底そんなファンキーで個性的な暮らし、なんて出来ないし、したくもないわけで。なので今のハタのアパートはある意味ごく普通。ごく常識的な人が常識的な暮らしをしておられる中に混じって、ごく地味に生活しております。マリファナなんてもってのほか。ま、ハタだってマリファナに興味がなかったわけじゃ無いですが、なんかもう、いいよね、そういうの、という感じ。


が。


流石にアパートの外、となるともうこちらのコントロールが効きません。もうそれは仕方ない。


向かいのビルは毎週末に深夜までくそつまらんEDMでウェーイ、窓を開ければマリファナの匂い、そして意味もなく猿のように叫ぶ特定の人種の皆様。凄まじく汚い路上。大量のハエ。昼夜問わずアパートが揺れるほどの轟音でヒップホップを鳴らしながら走り回るシャコタンのヤン車&バイク。そこら中で起こる発砲、傷害事件、そして殺人


確かに街は希望を胸に秘めた若者でみちみち。壁にはグラフティもあっておしゃれな感じ。活気もあるし賑わいもある。


でもうざい。


確かにそういうクールでファンキーな環境から何かのサブカルチャーが生まれてくるんでしょうね。若い頃にそういう場にいて、そこから新しい何かを吸収できたら、それは本当に素晴らしいこと。そうやって新しい文化が栄えていけば、この国もまた素晴らしい何かを生み出してくれるでしょう。がんばれ若者。


でもハタ自身は正直思います。


劣悪な環境を「ファンキーで個性的」という言葉で置き換えて、自分を騙して生きていくにはちょっと歳を取りすぎたのよね、と。



ま、人間歳をとると丸くなる、というか、角が取れる、なんて言いますが、

要はエッジの利いた環境に住むのがしんどくなるんでしょうね。今のハタはまさにそんな感じです。若人には若人の住処があるように、四十路過ぎたおっさんにはそれに見合ったじじむさい場所があるんでしょう。ということで、



引っ越しします。


さようならブルックリン。

あなたは若くて美しかった。





とはいえこの引っ越しは昨日今日できまった事ではなく。

その経緯は後編で。

続きます。






















このブログをお友達に教えて、お友達も綺麗にしてあげましょう。イオナ。私は美しい。