みなさまご機嫌麗しう。山陰地方では雪が降ったそうですがいかがお過ごしでしょうか。こちらは去年にも勝るとも劣らない異様な暖冬を迎えております。とはいえまあ気温は5度前後なのでそれなりに寒く、空もどんよりとした曇り空が続いております。なのでここは南国の眩しい陽光を皆さんにお届けすべく今回はシンガポールの蘭の写真でスタートです。ちなみに日本では育てることが非常に困難な蘭ですが、シンガポールでは雑草並みによく育ちます。
思い起こせば数年前の旧正月。ハタはシンガポールにおりました。気温30度の常夏のシンガポールで迎える華僑の旧正月。それはそれでエキゾチックな感じで、街も大変賑わっておりました。どこに行ってもライオンダンスが行われ、真夏のお正月を華やかに彩っています。
ショピングモールの中でおひねりをもらわない限りは動かんぞ、という強い決意のライオンさん
そんな中、家人が突然言いました。
「新年会にお呼ばれしたから行こう」
と。
新年会。まあ会社の新年会かしらん、と思ったのですが、その年はちょっと違った。
「社長直々に新年会に招待されたから」
家人はマレーシアの某カジノ財閥のテーマパーク部門で働いておりました。そこの財閥の一番えらい人が家人に「新年会にどうぞ」と。場所は当然マレーシア唯一の某カジノ。しかもアジアで多分5本の指に入るお金持ちからご招待。基本的には人が集まる場所はあまり好きではないハタですが、カジノ財閥の新年会、というパワーワードに惹かれて思わず参加を表明。
マレーシアのカジノ、というとあそこしかないわけですが。シンガポールから1時間、クアラルンプールから車で1時間ほど延々と山を登ったところにあるあのカジノ。気温が常に30度を超えるクアラルンプールの気温からすると10度ほど気温が低く、まさに雲の上の娯楽施設。日本では全く知られていませんが、東南アジアの華僑の間ではかなり有名。基本的にはお客さんの99%が華人(そもそもマレー系はムスリムなので賭博禁止)、というコテコテの華僑ビジネスではありますが、山の上に世界最大の部屋数を数えるホテルに若干くたびれた感じの遊園地、そしてカジノがありました。家人はここのテーマパークの改装の仕事に関わっており、頻繁にシンガポールとクラルンプールを行き来しておりました。今探してみたら10年前の改装直前に初めて視察で行った時の写真がありました。ひなびたクアララルンプールのジャングルの山の上に突如そびえるホテル群。多分日本人で行ったことのある人は相当少ないと思います。
サイケデリックなホテル
若干くたびれつつも集客力は抜群の遊園地
まあ改装前のカジノリゾートは古ぼけた昭和の香りを漂わせておりました。まあオーナーも流石にこれでは時代の流れについていけない、と思われたのでしょうか。大規模な改修をスタートさせたのがほぼ10年前。現在でもその改装は続行中の模様です。
ということで改装前に訪れてから8年ぶりにカジノを訪れました。その時には上に写っている遊園地は全て取り壊され、新しいテーマパークの建設地として着々と建設が進んでおりました。まあ家人がここに雇われていたのも結局はここのカジノ自体をより近代的なものにアップデートするというかなり長期的な計画の一つだったわけでして、8年ぶりにいくといろんなものが新しくリニューアルされていました。
確かロープウェイも新しくなってたはず
家人はここの財閥の一番上の方からのご指名でお仕事をしていたので、ここのカジノ会社の方からはいつも良い待遇をいただきまして。なんだかんだ言っても財閥の組織の中では相当上の方が相手をしてくださるので、「カジノの新年会でタダ飯食うためについてきました」とは言えず。ただ腰巾着としてのほほんとついてきたハタからすると大変気が引けてしまいます。家人とハタに同行して、新しくなった施設を直々にツアーしてくださいました。建物自体に変化はないものの、中は完全に新しくなり、ショッピングモールやアウトレットなど、今の需要に見合ったものが設置され、そしてカジノ自体も大幅な改装を加えられていました。
そうしましたら。相手をしてくださっている方が、まさかの一言。
「カジノ覗いてみます?」
えっハタみたいな部外者がオープン前のカジノ見ていいんですか?まじっすか?ということでなんと一般人が絶対に入ることは許されないであろうオープン準備中のカジノの中を見せていただくことに。多分カジノに行ったことがある人は山ほどいても、オープン前のカジノに入れてもらった一般人は多分限りなくゼロだと思うのですが。ハタの人生、こういうのだけやたらと引きが強いんですよね。
ここに華人のお父さんのお金が吸い込まれていきます。切ない
庶民の汗と涙の結晶が全てこのキラキラしたマシーンに吸い込まれて行くのですね。
そしてその吸い込まれたお金がどこに行くか、というと。
ここに集う人たちの懐に入るんだな、と
(しみじみ)。
日本の地方の古びたビジネスホテルのような狭い部屋に泊まり込みながら必死でスロットにお金を注ぎ込む華僑のおっちゃんは入れてもらえない、カジノ財閥のの新年会。ぶっちゃけクアラルンプールの上流階級の集い。南京都の貧乏人の子供がそんな上流階級の世界にお邪魔します。カジノのホテルの中でも一番高いホテルの宴会場。レッドカーペットの脇にはコンパニオンの皆様と写真撮影係。まあハタが通った時には写真係は休んでましたけど。まあセレブじゃねーしな。
正直ハタがシンガポールにいるときはなにせ暑いのでスーツとかまず着ないわけですね。なのでスーツ持ってません。だいたい短パンに半袖シャツ。ただ流石に短パンはあかんやろ、ということで薄手の長ズボンを履いてはいましたが、上半身は超極彩色のアロハ。いや、いいアロハシャツなんですよ。バンコクのジム・トンプソン(のアウトレット)で買ったいい感じにおしゃれなアロハ。ハタの南国での一張羅。ハタはおしゃれだと思ったんですけどね。
超場違い。
王子様主催の舞踏会にうっかり便所スリッパで来てしまったような、そういう「やっちまった感」が漂いますが、まあ側にいる家人も黒ジーパンにアロハなのでもうこれは「場違い組」で強気に行くしかないな、と。周りから「なんだこの妙なキャラは?」と見られているような気もしますが、そういうキャラなんです、という強気の設定で続行します。
動揺のあまりブレていますがこんな席に座らされ。ちなみにお隣はカジノ財閥の社長の最も信頼するお友達とその奥様。いわゆる超エリート&お金持ちのコンボ。マレー系のご出身だそうですが進歩的な女性としてスカーフなどは着用せずいらっしゃいました。そして当然のように英語がご堪能。たわいもない会話をさせていただきましたが、品の良いシンプルなタイシルクのようなお召し物にお手元には多分ビンテージのシャネルのクラッチバッグ。おおっとそう来たか、さすが本当の上流階級はさすがその辺のバランスが素敵、と感心しながら見ておりました。
ちなみにマレーシアの平均月収は約6万5千円。日本の平均月収の1/4に当たります。単純計算すると、同じシャネルのクラッチバッグでも、マレーシア人にとっては日本で見るそれよりも4倍高い、ということになります。実際はマレーシア国内での収入格差があるので庶民の感覚からするとシャネルのバッグなんてもうとんでもないお値段という感じだと思います。
東南アジアの華人文化圏では必ずお正月にやるローヘイという風習でお正月を祝います。
お皿に盛られた千切り状の野菜や魚、揚げワンタンの皮などをみんなで混ぜます。一応ここ、マレーシアはムスリム国家で人口の7割近くがムスリムのはずなんですが、そんなことはお構いなく華僑の風習を押し通します。華僑強い。
まあお正月イベント自体はカジノ財閥の会長さんの挨拶、そしてマレーシア政府の大臣(!)が挨拶、多分有名歌手のステージにお年玉コーナー、と進んでいたようですが、まあ家人も周りの人も基本的にはひたすら挨拶とお食事に忙しく。まあそりゃそうですよね、と。それでも挨拶に来る人来る人みんなマレーシアのお金持ちか上流階級の人たち。多分この人たちカジノとか絶対行かない。お隣に座っていた奥様も「娘をテキサスの大学に留学させてます」とか、しれっとおっしゃいます。ですがなんども言いますが、日本の価値の4倍の世界ですよー。多分感覚的に言えばまだ日本が1ドル360円の時代にアメリカに私費で留学に行けるご家庭、だと思えばそれがそのくらい裕福な方達か、というのがお分かりいただけるのではないでしょうか。バブル期にちょっとした小成金が子供を1年ほど留学させるのとは意味が全く違いますからねー。日本の貧乏人の子代表のハタとしてはもう話を聞けば聞くほど自分はなんでここにいるんだ?という疑問しか湧いてきませんが、まあ社会見学とタダ飯を兼ねて来たのでここは大人しくご飯をいただきます。ちなみご飯はビュッフェスタイルで中華からマレーシア料理からイタリアンにフレンチ、なんでもござれ、という感じでしたが、正直もう場違いすぎてさして味も覚えておりません。
とりあえず照明から舞台から衣装からみんな赤いしなんだったらムスリムの方も赤い服
ライオンさんもやたらと数が多い
やっぱり日本ってなんだかんだ言っても他の国から比較するとまだ中産階級が豊かなんですよね。東南アジア、そしてアメリカに住むようになって心から痛感したのは日本人の「普通の人」の豊かさでした。一説には日本よりも豊かになった、と言われるシンガポールですらその庶民の生活は日本よりもずっと慎ましいものであるのは事実です。ハタとて結局貧乏人の子として生まれては来たものの、こうやって東南アジアのお金持ちの世界に潜り込んで、多少ぎこちなくともそれほど粗相をせずにやり過ごせる、というのは日本の生活がそれだけ豊かであったということにもなるわけです。正直階級差って立ち居振る舞いに現れますしねえ。
日本の文化の豊かさ、というのはお金持ちが豊かなのではなく、庶民に教養がありマナーがあるという部分にあるわけです。そういう上流階級でしか得られないような態度、というかある種の美徳のようなものを日本の庶民はある程度なんとなく身につけているわけで、これ自体が海外の暮らしの中で考えると驚くべきことだったりします。っていうかほとんどの国では正直庶民が凄まじく貧しい。それはアメリカでも同じです。そしてそういう貧しい庶民に限ってカジノなどで大損こいてすってんてんになったりして、自分で自分の首を締めてしまったりするわけです。世知辛い。そしてそういうお金がこうしたお金持ちの元に集まって、ご子息が海外留学してさらに教養をつけて社会の優位に立つことになるわけです。まさに再生産される社会の格差。もし自分がマレーシアの庶民だったら多分一生かかってもここには到達できないんだろうなー、とぼんやりと考えながら華やかな新年会を眺めておりました。
日本のように明るい部分と暗い部分の差が少ない世界に慣れた目で東南アジアを見ると、光り輝く部分とその闇の部分の差に圧倒されます。光り輝く部分は圧倒的に明るい一方で、その脇には漆黒の闇があるーカジノ財閥の新年会はその光と闇を同時に垣間見たような貴重な体験でした。
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